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横浜地方裁判所川崎支部 昭和43年(ワ)30号 判決

原告

桑原秀五郎

被告

秋月実

ほか一名

主文

被告らは原告に対し、各自金一一〇万一、二二四円及びこれに対する昭和四三年二月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告らの連帯負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、原告において被告らのために各金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、連帯して金二四二万五、一〇四円及びこれに対する昭和四三年二月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び第一項につき仮執行の宣言を求めた。

二、被告秋月及び被告鈴木訴訟代理人は各「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、被告鈴木茂之は自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四一年一二月一四日午前七時四〇分頃、大型貨物自動車(車両番号横浜一さ一一六三、以下被告車という)を運転し、第一京浜国道を東京方面より横浜方面に向けて進行し、川崎市日進町二二番地先の交差点を、国鉄川崎駅方面に右折しようとした。右交差点は、中央に緑地帯を有する東京方面より横浜方面に通ずる京浜第一国道と、中央に市電軌道敷を有する国鉄川崎駅方面より川崎市池上新田方面に通ずる道路とが直角に交差するところであり、信号機が設置されている。被告鈴木は右交差点の中央電車軌道敷附近まで進入して右折の態勢に入つたが、折柄原告が自動二輪車を運転して京浜第一国道を横浜方面から東京方面に向けて進行し、右交差点に差しかゝつているのを左斜め前約四六メートルの地点に認めた。このような場合被告鈴木は直進車である原告車の動静を注視し、安全を確認した上右折進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約一五キロメートルで右折進行した過失により、青信号に従い右交差点に進入してきて被告車に接近した原告車に気付き、あわてゝ急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の左前輪附近を原告車に衝突させ、因つて原告を路上に転倒させ、原告に対し腰部挫傷の傷害を負わせた。

二、原告は右傷害の治療のため同日より昭和四二年一月二七日までの四四日間川崎市内の医療法人社団慶友会第一病院に入院し、同年一月二八日より同年八月一五日までの六か月一九日間同病院に通院して治療を受けたが、なお腰部に頑固な神経症状を残し、右後遺症は労災第一二級に該当するものと診断された。従つて、被告鈴木は民法第七〇九条の不法行為者として右事故による損害につき賠償の責任を負うべきである。

三、被告秋月実は、本件加害車両の所有者であり、自ら運送業を営み、被告鈴木の使用者であり、本件事故は被告鈴木が右業務遂行のために本件加害車を運転中に生じたものであるから、被告秋月は被告車の運行につき運行支配、運行利益を有していたものであつて、当然自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者としての責任を負うべきである。

四、原告は右事故によつて次のような損害を蒙つた。

(一)  財産的損害

(1) 入院中の諸雑費 合計金一、二六〇円

内訳(イ) 牛乳代 金九六〇円

(ロ) ガス代 金三〇〇円

(2) 通院費 合計金五、一七〇円

内訳(イ) 自宅より病院までの往復タクシー料金二二回分

合計金四、四〇〇円

(ロ) 自宅より病院までの往復電車賃一一回分 合計金七七〇円

(3) 退院後通院期間中の牛乳代 合計金一、一四〇円

(4) 退院後通院期間中の薬代 合計金一、四五〇円

内訳(イ) サロンパス二箱 合計金三〇〇円

(ロ) 塗薬「キンカン」三瓶 合計金一、一五〇円

(5) 休業補償費 合計金四〇万四、八〇〇円

右は原告が本件事故当時大工として一日金二、二〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故の日の翌日である昭和四一年一二月一五日から、原告が就労するに至つた日の前日である昭和四二年六月三〇日までの休業期間のうち、原告が本件事故前一か月平均二八日の割合で就労していたので、昭和四一年一二月は一六日間、昭和四二年一月より六月までは一か月当りの就労日を二八日間として計算した合計額である。

(6) 後遺症による労働能力の喪失により原告の蒙つた損害合計金一一〇万六、八八四円

原告が本件事故後、就労するに至つた昭和四二年七月一日現在五六才であり、以後八年間は就労可能であるところ、当時大工の手間賃は一日金二、五〇〇円が通常であつたから、原告の本件事故当時の一か月当りの就労日数二八日で原告の年間所得を計算すると金八四万円となる。ところが、原告は本件事故により前記の如く労災第一二級に該当する後遺症を残し、重い物を持つたり腰を屈する際に、腰部に圧痛を覚えるため従来の戸外における大工職に従事することは不可能であり、右再就労にあたつても、知人の特別の計らいでビルの室内造作取付作業に従事し一日金二、〇〇〇円の工賃を得るに過ぎない。従つてこれを通常の大工の工賃一日金二、五〇〇円と比較すると原告は、本件事故により二〇パーセントの労働能力を喪失したものというべく、従つて、原告の失つた年間得べかりし利益は金一六万八、〇〇〇円である。従つて右に述べたところを基準にして原告の労働能力喪失による得べかりし利益をホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると金一一〇万四、八八四円となる。

(7) 弁護士費用 金一〇万円

(二)  精神的損害金 金一〇〇万円

原告は本件事故により前記の如く四四日間の入院加療、その後六か月余りの通院加療を余儀なくされ、このため多大の肉体的精神的苦痛を味つたことは勿論、一家の支柱として、大工職としての工賃により生活を立てゝきたものであつて、非常時に備えて、特に貯蓄もなく、本件事故による休業期間中如何にして家族の生活を維持するか病床にあつて日々思い悩んだものであつて、その心労は察するに余りある。また、原告は大工としての業務遂行のため最も重要な腰部の後遺症傷害により一生従前の如く戸外にて家屋建築に従事することが不可能となり、室内の造作取付作業の如く大工としては不本意な業務に従事するより外に方法はなく、しかも折につけ自己の腰部をかばいながら仕事をしなければならなくなつたことの精神的損害は多大である。よつて慰藉料の額は金一〇〇万円が相当である。

五、原告は本件事故による損害金の内入として、被告秋月より合計金一九万五、六〇〇円の弁済を受けた。よつて、原告はこれを前記慰藉料の一部として充当した。

六、よつて、原告は、被告鈴木に対しては民法第七〇九条により、被告秋月に対しては自動車損害賠償保障法第三条により、各自連帯して、前記第四項記載の本件事故による損害金合計金二六一万八、七〇四円より第五項の内入金を差引いた残金二四二万三、一〇四円及びこれに対する本状送達の日の翌日である昭和四三年二月八日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求原因に対する被告らの答弁及び主張

一、被告秋月の答弁及び主張

(一)  答弁

請求原因第一項は原告主張の日時、場所で原告運転の自動二輪車と被告鈴木運転の大型貨物自動車の衝突による交通事故が発生した事実は認めるが、その余は不知。

同第二項は不知。

同第三項は認める。

同第四項は不知。

同第五項は被告が金一九万五、六〇〇円を支払つたことは認めるが、その余は不知。

同第六項は争う。

(二)  主張

(イ) 被告鈴木は青信号に従いすでに右折を開始していたのであるから道路交通法第三七条により、原告車に対し優先車であることは明らかである。このことは原告車が被告車の左側面に衝突転倒していることでもわかる。原告は約五〇メートル前方で右折車のあることを察知したのに漫然直進して自ら衝突するが如きはたゞあきれるばかりである。よつて、本件事故は被告鈴木に過失はなく原告の一方的過失によるものである。

(ロ) 被告は原告の要請により、休業補償費として一日金二、〇〇〇円の割合により合計金二二万八、六〇〇円、看護人費用等として金一万三、九四〇円、コルセット代として金七、一〇〇円、診断書代として金六〇〇円、病院への支払として金二三万五、六五五円、以上合計金四七万五、八九五円を支払つた。

二、被告鈴木の答弁及び主張

(一)  答弁

(イ) 請求原因第一、二項の事実に対し、

本件事故現場の道路状況が原告主張のとおりであること、被告車が第二京浜国道を東京方面から横浜方面に向けて進行し、本件交差点で右折したこと、原告車が横浜方面から東京方面に向けて進行したこと、被告鈴木が右折するに際し、左斜め前方約四六メートルの地点に原告車が右交差点に向けて進行してくるのを認めたこと、事故当時原告車の進行方向の信号機が青であつたこと、原告主張の位置で原告車の前輪が被告車の左側前輪附近に接触したことは認める。本件事故により原告が主張のような傷害を負つたことは知らない。その余の事実は否認する。

(ロ) 請求原因第四項の事実中、(一)の(1)の(イ)、(一)の(2)、(一)の(3)、(一)の(6)、(二)に各記載してある事実は否認し、その余の事実は不知。

(ハ) 請求原因第五項の金員支払の事実は認めるが、右金員を慰藉料の一部に充当した旨の主張は争う。

(ニ) 請求原因第六項の主張は争う。

(二)  主張

(イ) 被告鈴木は本件事故当日午前七時三〇分頃、相模原市に行くため、被告車を運転して川崎市渡田町一丁目三八番地の勤務先を出発して後続の同僚の訴外三村七郎運転の車とともに京浜第一国道を東京方面から横浜方面に向けて進行し、本件事故現場である元木町交差点にさしかかつた。被告車の前には、同交差点で右折する車両が数台先行しており、折から進行方向の信号機が青であつたから、被告車は先行車に続いて交差点に入り、先行車の停止に従つて一旦停車した。そして、先行車は順次右折進行を開始し、被告車はこれに続いて右折すべく別紙図面〈一〉の位置まで徐行して進行し、左方道路よりの進行車の有無及び前方の安全を確認するため一時停車した。このとき被告鈴木は自車左斜め前方約四六メートルの地点に、京浜第一国道を横浜方面から、東京方面に向け右道路の左側を進行してくる原告車一台のみを認めたが、その現場距離からして自車が右折するに十分安全な距離であり、かつ、原告車の前方と自車との間には他の進行車両は全く存在しなかつたので、自車右隣りに被告車同様一時停止していた数台の右折車の発進に続いてローギヤのまま時速約一〇キロで発進し、完全に右折態勢に入つた。当時、原告車と被告車との間には全くその前方の視界をさえぎる障害物はなく、原告は交差点の手前約四〇メートルの位置で、被告らの右折車の存在を認めていたものであるから、原告としては交差点に進入するに際しては徐行ないし一時停止してすでに右折している車両の進行を妨げないよう注意すべき義務があるのにこれを怠り、被告車の右折進行を無視してブレーキ操作等により衝突を未然に回避する措置をなさないまま交差点に進入してきたため、被告鈴木は原告車の暴走に気付いて急ブレーキをかけると始ど同時に、原告車が被告車の左前輪附近に突込み衝突したものである。

(ロ) 本件事故の態様は右のとおりであつて、被告鈴木は右折に際し、一旦停車し、左方及び前方を十分注視し、かつ、自車の右折進行に対する原告車の距離が安全距離であることを確認した上、右折進行したのであるから、同被告には全く過失がなく、本件事故はひとえに、原告の注意義務、事故回避義務違反の暴走によつて生じたものである。

(ハ) 仮りに、被告鈴木にも過失があつたとしても、前記の事情に照らし原告の過失は同被告のそれに比し遙かに大きい。

第四、被告らの主張に対する原告の答弁

一、原告に過失があつたとの被告らの主張事実は否認する。原告が本件交差点に入る直前、原告車の二〇メートルないし三〇メートル前方を原告車と同一方向に進行していた先行車があり、信号機が青であつたから、右交差点を直進して通過していつたから、被告鈴木は、原告が右先行車に続いて進行し右交差点を通過すべきことを当然のこととして予測し、その動静によく注意し、原告車を通過させてから、安全を確認しつつ進行すべきであつたのに、これを怠り、漫然進行したため本件事故を惹起するに至つたのである。よつて、被告鈴木に過失のあることは明らかである。

二、被告秋月は、休業補償費として金二二万八、六〇〇円を原告に支払つたと主張するが、右事実は否認する。原告は休業期間中金一九万五、六〇〇円を同被告より受領したに過ぎない。

第五、証拠〔略〕

理由

原告主張の日時、場所において原告運転の自動二輪車と被告鈴木運転の大型貨物自動車とが衝突する交通事故が発生したこと、被告秋月は被告車の所有者であり、被告鈴木の使用者であつて、自動車損害賠償保障法にいう運行供用者であることは当事者間に争がない。

〔証拠略〕を綜合すれば、原告車と被告車が衝突するに至るまでの両車両の進行の模様及び道路の状態は原告主張のとおりであつた(この点は、原告と被告鈴木との間で争がない)こと、被告鈴木が右折のため青信号に従い、交差点の中央附近まで進出して、右に向きを変えて一旦停車し、別紙図面〈一〉の地点において、左斜め前方上り車線に、横浜方面からの直進車の有無を確かめたところ、約四六メートル左斜め前方に上り車線の第一通行帯を東京方面に直進しようとする原告車を発見したが、このような場合自動車運転者としては、青信号に従つて直進しようとする車両の有無を確かめるとともに、その進行を妨げないようにして右折進行すべき義務上の注意義務があるのにこれを怠り原告車との距離が前記のとおりであつたから、その速度からみて安全に原告車の前面を横断し得るものと軽信し、時速約一〇キロメートルで発進して上り車線を横断し始めた過失により折柄青信号に従つて交差点に進入してきた原告車が、同被告の判断とは異なり意外に早く接近してくるのに気付き、急停車の措置をとつたが及ばず、自車左前輪附近に原告車の前輪を衝突させて原告をその場に転倒させ、因つて原告に対し腰部挫傷(圧迫骨折)の傷害を負わせたものであることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。すなわち、本件事故は被告鈴木が判断を誤つて原告車の進路を妨げた過失に基因するものといわなければならない。

被告らは、被告車はすでに右折の態勢に入つていたのであるから、原告車はこれを回避する措置をとるべきであつたのに、これを怠り、交差点に進入したため、本件事故は発生したのであるから、被告鈴木に何ら過失はない旨主張するが、被告車が直進車たる原告車の進路を妨げることなく右折を開始していたのであるなら格別、そうでないから右主張は採用しない。

従つて、原告が本件事故によつて蒙つた損害につき、被告鈴木は民法第七〇九条により、被告車の運行供用者である被告秋月は爾余の点についての判断を待つまでもなく自動車損害賠償保障法第三条により、それぞれ賠償義務がある。

しかしながら、前記各証拠によれば、当時原告は東京方面に向けて時速約三七キロメートルで進行し、右交差点を直進通過すべく、その手前三〇数メートルの地点に差しかかつた際、右斜め前方の交差点中央附近に、右折して原告車の進路を右から左に横切ろうとしている被告車を認めたのであるから、たとえ前方の信号が青であつても、右折車が自車の前面を横切ることのあり得ることを予想し、その動向を十分注意しながら交差点に進入し、右折車との衝突による事故の発生を未然に防止すべきであるのに、前方の信号が青であつたのに気を許し、右折車は当然直進車たる原告車の進行を妨げないものと軽信し、漫然前記速度のまま進行したことが認められるから、この原告の過失も本件事故の一因をなしていたものというべきである。そして、右折車たる被告鈴木と直進車たる原告の過失の割合は七対三とみるのが相当である。

そこで原告の蒙つた損害について考察する。

(一)  〔証拠略〕によれば、原告は前記傷害のため、請求原因第二項に記載のとおりの入院及び通院治療を受けたが、なお、腰部に頑固な神経症状を残し、右後遺症の障害等級は第一二級相当であることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

(二)  〔証拠略〕によれば、原告は前記入院中の雑費として、牛乳代計金九六〇円、ガス代計金三〇〇円の合計金一、二六〇円を支出し、退院後の通院に要した経費としてタクシー代二二回分計金四、四〇〇円、電車賃一一回分計金七七〇円、牛乳代計金一、一四〇円、塗布薬購入代計金一、三五〇円の合計金七、六六〇円を支出したことが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

(三)  〔証拠略〕によれば、原告は明治四三年八月一三日生まれの健康な男性であつて、三三才頃より大工職人をしていたものであるが、本件事故当時は一か月のうち平均二七日間就労し(原告は平均二八日間就労した旨主張するが、その証拠はない)、神奈川県下の大工職の平均賃金である一日金二、二〇〇円の割合による賃金を得ていたこと、ところが本件事故のため昭和四一年一二月一四日より昭和四二年六月末日まで休業を余儀なくされたこと、原告が事故後再就労した昭和四二年七月当時の神奈川県下における大工職の平均賃金は一日金二、五〇〇円であり、原告は本件事故により受傷しなければ、再就労後当然この程度の賃金は得られた筈であるのに、前記後遺症のため、労働力が低下し、再就労当時右平均賃金の二〇パーセントに当る一日金二、〇〇〇円の賃金しか得られず、今後もこの程度の割合による賃金しか得られないものと認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。

そうすると、

(イ)  原告が右休業期間中就労できた筈の日数を右平均就労日数により推算すると、昭和四一年一二月が一五日、昭和四二年一月以降同年六月までは一か月二七日の割合による計一六二日、以上合計一七七日であり、一日金二、二〇〇円の割合による右一七七日分の賃金は計金三八万九、四〇〇円となり、これが原告が本件事故により休業を余儀なくされたため蒙つた損害額といえる。

(ロ)  原告は再び就労できるようになつた昭和四二年七月一日現在満五六才であり、以後原告主張のとおり六三才まで八年間は大工職人として就労することが可能であると考えられるところ、原告は前記のとおり障害等級第一二級の後遺症により約二〇パーセントの労働能力を喪失したことが認められるから、原告主張の如く原告が事故後再就労した昭和四二年七月当時の神奈川県下における大工職人の平均賃金一日金二、五〇〇円を基準にすれば、その二〇パーセントに当る金五〇〇円が、原告の労働能力喪失により失う一日の収入額である。原告の一か月間の平均就労日数は前記の如く二七日であるから一年間では三二四日であり、従つて右労働能力喪失により失う一年間の収入額は一六万二、〇〇〇円であり、八年間では金一二九万六、〇〇〇円となる。これが原告が労働能力の一部喪失により失うべき得べかりし利益の総額であるから、これをホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、原告が現在において賠償を請求し得る金額は金九二万五、七一四円(円位未満四捨五入)である。

(四)  更に、原告は弁護士に委任して本訴を提起したことにより、相当額の出費を余儀なくされたことが認められ、これは本件不法行為によつて通常生ずべき損害と認められ、被告らはこれが賠償義務があるところ、その額は金一〇万円をもつて相当と認める。

結局、原告は本件事故により以上(二)ないし(四)に記載した金額の合計金一四二万四、〇三四円の財産上の損害を蒙つたことになる。原告主張の損害額のうち右認定額を超える部分についてはこれを認めるに足る証拠はない。

ところで、本件事故については、前記の如く原告にも過失が認められるから、損害賠償の額を定めるにつきこれを斟酌するのが相当であり、右過失を斟酌すれば、原告の賠償を求め得る額は前記金額の一〇分の七に当る金九九万六、八二四円(円位未満四捨五入)とするのが相当である。

次に、原告は本件事故により多大の精神的苦痛を受けたことが推測せられるところ、本件事故の態様、受傷の程度、入院及び通院に要した期間、後遺症の存すること及びその他諸般の事情を考慮すれば、慰藉料の額は金三〇万円をもつて相当と認める。

原告が事故による損害金の内金として被告秋月より金一九万五、六〇〇円の支払を受けたことは原告の自認するところである。被告秋月は原告の請求金額のうち、休業補償費として金二二万八、六〇〇円を支払つた旨主張するが、原告が自陳する右金一九万五、六〇〇円を超える額についてはこれを認めるに足る証拠はない。従つて、前記財産上の損害と慰藉料の合計額金一二九万六、八二四円より原告の認める右金一九万五、六〇〇円を控除した残額金一一〇万一、二二四円が現在における損害額というべきである。

よつて、原告の本訴請求は右金一一〇万一、二二四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年二月八日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎宏八)

別紙 〈省略〉

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